学会の指針は、何を挙げていて何を認めていないのか
まず一次情報を確認します。日本産科婦人科学会は2025年3月31日に「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」を公表しました。その中の「非薬物療法は何を行うか?」という項目には、運動についてこう書かれています。
運動療法として有酸素運動、筋力トレーニング、ヨガ、ピラティス等はPMSの症状が改善したという研究結果があるが、エビデンスの質は限られており、研究の異質性が高いため、特定の運動や量が効果的であるかは明確ではない、という記述です(日本産科婦人科学会, 2025)。
この一文の扱い方が重要です。パーソナルジムとしては「ピラティスが学会に挙げられている」と喧伝したくなるところですが、それは半分しか読んでいないことになります。正確には次の2つが同時に成り立っています。
- 選択肢として認められている:有酸素運動、筋力トレーニング、ヨガ、ピラティスは、症状が改善したという研究結果がある
- 処方は確定していない:どの運動をどれだけやれば効くのか、その最適解は示されていない
同じ指針は、睡眠・食事・運動・ストレス管理といった生活習慣指導について「明確なエビデンスはない」とも書いています。厚生労働省の研究班が監修する情報でも、PMSには300種類以上の治療が試みられてきたが明確な治療法は確立されていないと説明されています。
だから「これをやれば治る」という記事は、そもそも根拠を超えています。では何ができるのか。ここから先が本題です。
指針が診断の基本に置いているのは「記録」
同じ指針の非薬物療法の項目で、運動よりも前に、1番目に挙げられている項目があります。患者に症状日誌(症状の頻度、発症時期、重症度)の記録を指導することです。月経モニタリングアプリや簡単なメモを利用してもよい、とも明記されています。
理由は診断の構造にあります。PMSは血液検査で分かる病気ではありません。症状が黄体期(生理前3〜10日)に繰り返し現れ、生理が始まると軽くなるという周期性そのものが診断の根拠です。だから指針は、月経2周期にわたる症状日誌の記録を推奨しています。国際的な分類でも、少なくとも2周期にわたる前向きの記録によって症状が確認されることが条件に含まれています。
ところが、日本の診療の実態はこうです。学会が会員に行ったアンケート調査では、症状日誌の実施率はわずか8.4%、スクリーニング調査票の活用率も10.3%。大半の医師が漠然とした問診(84.4%)で対応していました。指針自身が、日本ではPMSおよびPMDDの診断が曖昧であり、エビデンスに基づかない治療が散見されることが明らかになったと総括しています。

※ 日本産科婦人科学会会員へのアンケート調査より(同指針が引用)。診断には2周期の症状日誌が推奨されているが、実施率は8.4%にとどまる。
これは医師を責める話ではありません。限られた診察時間の中では、患者の側に記録がなければ、周期性を確認するのは物理的に難しい。逆に言えば、記録を持って行く人は、それだけで診療の質を変えられるということです。
そして運動についても、同じことが言えます。自分の周期のどこで何が起きているか分からないまま、一般論の「有酸素運動が効く」を当てても、当たるかどうかは運次第です。
記録は3つだけでいい
完璧な記録表を作る必要はありません。指針が挙げている記録の要素は3つです。
| 記録すること | 具体的に | なぜ必要か |
|---|
| 症状の頻度 | どんな症状が、月に何日出たか | 周期性の確認。毎日ある症状はPMSではない可能性 |
| 発症時期 | 生理の何日前から出たか | 黄体期(生理前3〜10日)に集中しているかの確認 |
| 重症度 | その日つらさが10段階でいくつか | 「軽い日」と「動けない日」を分けるため |
※ 出典: 日本産科婦人科学会「月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針」(2025)の記載をもとに作成。アプリでも紙のメモでもよいとされている。
ポイントは重症度を数字にすることです。「つらい」だけでは、後から振り返ったときに強度の判断ができません。10段階でメモしておくと、2周期分たまった時点で「生理の5日前から6以上になる」「3日前が最も重い」といったパターンが見えてきます。
ここまでが医学的な土台です。以降は、その記録をどう運動に当てるかという実務の話になります。指針が「特定の運動や量が効果的かは明確ではない」としている以上、以下は個人の記録に合わせて配分するための考え方であって、学会が推奨する処方そのものではありません。 そこは正直に区別しておきます。
記録が取れたら、運動をこう当てる
指針は、成人に推奨される運動量として厚生労働省のガイド2023を引いています。歩行と同等以上の身体活動を1日60分以上(約8,000歩)、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、または筋力トレーニングを週2〜3日(合計週60分以上)です。
この量を「毎週同じように」こなそうとすると、しんどい週に破綻します。だから、月の中で配分を変えます。
| 時期 | 体の状態 | 運動の当て方 |
|---|
| 生理中 | 出血、痛みが出やすい | 無理をしない。軽いストレッチや歩行。痛みが強い日は休む |
| 生理後〜排卵前 | 体調が上がりやすい時期 | ここに強度を寄せる。筋力トレーニングの主軸をこの2週間に置く |
| 排卵後〜生理前(黄体期の前半) | まだ動ける | 通常の運動を継続。ここで「やめない」ことが習慣を守る |
| 生理前3〜10日(症状が出る時期) | 記録上、重症度が上がる期間 | 強度を落として頻度を保つ。ピラティスやストレッチ中心に切り替える |
※ 周期の長さや症状の出方は個人差が大きいため、日数は目安です。自分の記録に合わせて調整してください。
この設計の狙いは、しんどい週に「ゼロ」にしないことです。ゼロにすると、翌週に再開するハードルが上がり、そのまま運動習慣が消えます。強度を落として頻度だけ残せば、習慣は生き残ります。
そしてこれは、月ごとに固定するものではありません。記録を続けていると、「今月は思ったより軽い」「今月は3日前から重い」という差が見えます。その差に合わせて、その週の内容を決める。これが記録を取る実務的な見返りです。
なお、生理前にむくみや体重増加を感じる方は多いですが、これは水分によるもので脂肪が増えたわけではありません。この時期に体重計の数字を見て落ち込むのは、記録の使い方としてもったいないところです。むくみの仕組みは夕方の脚のむくみの記事で解説しています。
正直に:運動しすぎは、生理そのものを止めうる
運動を勧める記事として、逆側のリスクも書きます。
運動量が多すぎる、あるいは運動量に対して食事が足りていない状態が続くと、生理が止まることがあります。国際オリンピック委員会は2023年のコンセンサス声明で、この問題を「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」として整理しています(Mountjoy et al., 2023)。健康と競技パフォーマンスの両方に有害な結果をもたらす症候群として位置づけられており、月経の異常や骨の健康の悪化はその一部です。
これは競技選手だけの話ではありません。ダイエットのために食事を削りながら運動量を増やしている方は、同じ構造に入り込む可能性があります。3ヶ月以上生理が来ていない場合は、運動や食事の調整で様子を見るのではなく、婦人科を受診してください。
RESISTが極端な食事制限を勧めないのは、この点も理由の一つです。食べる量を削って運動を増やす組み合わせは、短期的に体重が落ちても、女性の体にとって代償が大きくなりがちです。
受診を考えたほうがいいとき
PMSは「我慢するもの」ではありません。次のような場合は、記録を持って婦人科に相談してください。
- 仕事や家事、学業、人間関係に明確な支障が出ている(指針が引く国際的な分類でも、苦痛をもたらし仕事・学校・社会活動・趣味・他者との関係を著しく妨げることが条件に含まれます)
- 精神症状が強い(抑うつ、強い不安、涙が止まらない、自分を責める気持ちが強い)。この場合はPMDD(月経前不快気分障害)の可能性があり、指針では精神科・心療内科への紹介を検討する項目も設けられています
- 鎮痛剤を飲んでも仕事にならない日がある
- 症状が生理開始後も続く、または月経周期と無関係に出ている(別の原因の可能性があります)
- 3ヶ月以上生理が来ていない
治療の選択肢は複数あります。指針では低用量ピル(OC・LEP)が薬物療法の第一選択として最も多く使われている実態が示されており、漢方薬やSSRIも選択肢として扱われています。運動と記録は、これらと並行してできることです。どちらか一方を選ぶ話ではありません。
なお、この不調は珍しいものではありません。指針によれば、軽度の症状を含めると80〜90%の女性が月経前に何らかの症状を経験し、そのうちPMSと診断される女性は20〜30%、PMDDは1.2〜6.4%とされています。
働く女性の実態としても、東京都が3,565人に行った調査で、生理痛について「1日以上寝込み仕事ができない」4.5%と「横になって休憩したくなるほど仕事への支障をきたす」22.6%を合わせて27.1%が業務が困難なほど重い症状を抱え、57.4%が仕事に影響が出ていると回答しています。さらに、女性特有の健康課題によって3割の女性がキャリアアップを諦めているというデータもあります(東京都)。個人の頑張りで解決する問題ではない、というのが実態です。
波のある体に、合わせられる環境を
RESIST北浦和店は、北浦和駅東口から徒歩4分。文教のまち浦和区にあり、30代・40代の女性が多く暮らすエリアです。
PMSのある体で運動を続けるうえで、いちばん効くのは「変更できること」だと考えています。RESISTは1回30分・完全マンツーマンで、予約は当日1分前まで可能、キャンセル料はかかりません。朝起きて「今日は無理だ」と思った日に、罪悪感なく翌日へ振り替えられます。
内容もその日に変えられます。調子のいい週は筋力トレーニングで積み上げ、症状が重い週はマシンピラティスやストレッチでコンディショニングだけにする。完全個室なので、体調が万全でない日に人目を気にする必要もありません。毎日8:00〜22:00営業で、会員の平均来店頻度は週4.6回です。
体験のときに、記録を持ってきていただけると話が早く進みます。記録がまだなくても構いません。「どの週がしんどいか」を言葉で教えていただければ、そこを避けた設計から始めます。無理な勧誘は一切ありません。店舗の詳細・予約はこちら。運動が続かない仕組みの話は週1回30分から始める記事もあわせてどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. 生理前は運動を休んだほうがいいですか?
A. 完全に休むより、強度を落として頻度を保つほうが習慣は続きます。学会の指針も定期的な運動を生活習慣指導に含めていますが、特定の運動や量の最適解は示されていません。だから「自分の記録上、重症度が上がる期間」を把握して、そこを軽い内容に置き換えるのが現実的です。痛みが強い日や動けない日は、休んで構いません。
Q. ピラティスはPMSに効くのですか?
A. 学会の2025年の指針は、運動療法として有酸素運動、筋力トレーニング、ヨガ、ピラティス等を挙げており、症状が改善したという研究結果があると記載しています。ただし同じ指針が「エビデンスの質は限られており、特定の運動や量が効果的であるかは明確ではない」とも書いています。「効く可能性のある選択肢の一つ」が正確な表現で、確実な治療法として案内することはできません。
Q. 記録はどのくらい続ければいいですか?
A. 診断の観点では2周期(約2ヶ月)が推奨されています。運動の設計という目的なら、2周期でパターンの見当がつき、3周期あればかなり確度が上がります。記録の方法はアプリでも紙のメモでもよいと指針に明記されています。症状名・生理の何日前か・つらさの10段階、この3つだけで十分です。
Q. PMSと更年期の症状は、どう見分けるのですか?
A. 大きな違いは周期性です。PMSは生理前の3〜10日に症状が出て、生理が始まると軽くなります。この波がはっきりしているかどうかが手がかりです。40代以降で周期そのものが乱れてきている場合は、両方が混在していることもあります。40代の体の変化については更年期と体重増加の記事で解説しています。判断に迷う場合は、記録を持って婦人科に相談してください。
参考文献