「更年期で代謝がガクンと落ちる」は、実は正確ではない
まず、いちばん広く信じられている誤解から崩します。「歳をとって、特に更年期で、基礎代謝が急に落ちるから太る」。これは、直感的にはもっともらしい。でも、大規模なデータはそう言っていません。
数千人のエネルギー消費を精密に測った研究では、1日の総エネルギー消費量は、20代から60代まで、体格で補正するとほぼ一定に保たれることが示されています。代謝が本格的に下がり始めるのは、60代を過ぎてから。つまり、40代・50代で「代謝がガクンと落ちる」という現象は、少なくともデータ上ははっきりしないのです(この点は、以前「代謝は30代で落ちない」で詳しく解説しました)。
だとすれば、40代で痩せにくくなる感覚の正体は、代謝の急落では説明できない。犯人は、別のところにいます。
本当に起きているのは「中身の入れ替わり」
その犯人を、別の研究が捉えています。閉経をはさんで女性の体組成の変化を長期間追った研究です。ここで見つかったことが、核心を突いています。
体重の増えるペースそのものは、更年期の前後で大きく変わりませんでした。更年期の前から、体重はゆるやかに直線的に増えていて、更年期になったからといって、増加が急加速するわけではなかったのです。
ところが、中身は違いました。更年期の移行期に入ると、脂肪の増えるスピードが約2倍になり、同時に筋肉(除脂肪量)は減少に転じたのです(Greendale ほか, JCI Insight, 2019)。この変化は、最終月経のおよそ2年後まで続き、そこで落ち着きます。

※ グラフは Greendale ほか(2019)の報告に基づく概念図です。体重の増加ペースは更年期前後で大きく変わらない一方、脂肪の増加ペースは移行期に約2倍へ。筋肉(除脂肪量)は減少に転じます。
これが、40代からの「痩せにくさ」の正体です。体重計の数字は、以前と同じようなペースで動いているかもしれない。でもその中身では、燃やしてくれる筋肉が減り、ためこむ脂肪が倍速で増えている。しかも脂肪は、お腹まわり(内臓のまわり)につきやすくなる。だから「体重は大きく変わっていないのに、体型が変わった」「お腹だけ出てきた」という実感が生まれるのです。
だから、体重計より「中身」を見てほしい
ここから、大事な発想の転換です。40代からの体づくりで、体重計の数字だけを追いかけるのは、得策ではありません。
なぜなら、いちばん避けたい「筋肉が減って脂肪が増える」入れ替わりは、体重計には映らないからです。極端な食事制限で体重を落とせば、数字は減ります。でもそのとき、ただでさえ減りつつある筋肉が、さらに削られてしまう。すると、燃やす力が落ちて、将来もっと太りやすく、疲れやすい体になる。体重を追って食事をさらに削ることは、40代からはむしろ逆効果になりかねないのです。
見るべきは、体重ではなく中身。筋肉を保てているか、お腹まわりが締まっているか、階段で息が切れないか。数字より、体の機能と形。ここに視点を移すことが、この年代の体づくりの出発点です。
40代からやるべきは「筋肉を守る」こと
では、具体的に何をすればいいのか。答えはシンプルです。減っていく筋肉を、意図的に守る。そのための二本柱があります。
- 筋力トレーニング:筋肉は、使えば何歳からでも応えてくれます。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、成人に筋力トレーニングを週2〜3日行うことを推奨しています。有酸素運動だけでは、減る筋肉は止められません。筋肉に負荷をかける運動が要ります。
- たんぱく質:筋肉の材料が足りなければ、鍛えても作れません。40代からは特に、意識してたんぱく質を確保することが土台になります(毎日の食事でのたんぱく質の摂り方も参考にしてください)。
この二本柱で筋肉を守れれば、体組成の悪い入れ替わりにブレーキがかかります。脂肪をためこみにくく、燃やしやすい体を保てる。更年期は避けられない変化ですが、その中身をどう受け止めるかは、行動で変えられるのです。焦って食事を削るのではなく、筋肉を守る。これが、40代からの体づくりの正解です。
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とはいえ、「筋トレを一人で始める」のは、ハードルが高いもの。フォームが合っているか不安、どのくらいの負荷が適切か分からない、続く気がしない。その不安は当然です。
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よくある質問(FAQ)
Q. 更年期で太るのは、ホルモンのせいだから仕方ないのでは?
女性ホルモンの変化が、脂肪のつき方(お腹まわりに増えやすくなる)に影響するのは事実です。ただ「だから何をしても無駄」ではありません。筋肉を守る行動で、体組成の悪化は大きく和らげられます。避けられない変化と、行動で変えられる部分を分けて考えることが大切です。
Q. 体重を落としたいのに、筋トレで増えませんか?
筋肉は脂肪より密度が高いので、体組成が改善する過程で体重が一時的に変わりにくいことはあります。でも、それは中身が良くなっているサインです。体重の数字より、体型や締まり、体の軽さで判断してください。
Q. 有酸素運動(ウォーキングなど)だけではだめですか?
有酸素運動も健康には有益ですが、減っていく筋肉を守る力は弱いのが弱点です。40代からは、筋肉に負荷をかける筋トレを組み合わせることで、痩せやすさの土台である筋肉を保てます。
Q. 何歳から始めても間に合いますか?
はい。筋肉は、何歳から鍛えても応えてくれることが分かっています。早いに越したことはありませんが、「遅すぎる」ことはありません。今日が、いちばん若い日です。
参考文献