その目標、あなたに合ってないかも。運動が続かない本当の理由|最新スポーツ科学が暴く「目標設定」の落とし穴

※この記事は2025年11月にSports Medicine誌に掲載された専門家声明をもとにした解説です。

冒頭要約(まずここだけ読めばOK)

  • 運動が続かないのは「意志が弱い」からではない

  • 原因は、あなたに合っていない目標を立てていること

  • 「1日10,000歩」「週3回ジム」——この"常識的な目標"が逆効果になる人がいる

  • 運動習慣がない人には「どこまでできるか見てみよう」という曖昧な目標の方が効く

  • 間違った目標は、挫折感・自己嫌悪・運動嫌いを生む

  • 自分に合った目標の立て方を知れば、運動は「続けられるもの」に変わる

はじめに:また三日坊主で終わった、と自分を責めていませんか

「今年こそ痩せる」「毎日10,000歩歩く」「週3回はジムに行く」

年始や誕生日、健康診断のあと。何度、こんな目標を立てたでしょうか。

そして何度、続かなかったでしょうか。

続かないたびに思う。「自分は意志が弱い」「根性がない」「だからダメなんだ」と。

でも、最新のスポーツ科学は、まったく違うことを言っています。

あなたの意志が弱いのではない。目標の立て方が間違っているだけだ。

この記事では、2025年に発表された専門家声明をもとに、「なぜ運動が続かないのか」「どんな目標なら続くのか」を解説します。

読み終わるころには、「自分を責める」から「目標を見直す」へ、考え方が変わっているはずです。

1. 「1日10,000歩」という目標が、あなたを追い詰めている

まず、よくある目標を見てみましょう。

  • 1日10,000歩歩く

  • 週3回ジムに通う

  • 毎朝30分ランニングする

  • 3ヶ月で5kg落とす

具体的で、測定可能で、期限がある。いわゆる「SMARTゴール」です。

トレーナーも、健康アプリも、ダイエット本も、みんなこの形式を勧めてきます。

でも、この論文が明かした事実は衝撃的です。

「具体的な目標」が効くのは、すでに運動習慣がある人だけ。

運動習慣がない人にとって、具体的な数値目標は逆効果になることがある。

なぜか。

「1日10,000歩」という目標を立てたとします。

月曜日、8,000歩だった。「あと2,000歩足りなかった」と思う。

火曜日、6,500歩。「全然ダメだ」と思う。

水曜日、雨で5,000歩。「もう無理」と思う。

木曜日、歩数計を見るのが嫌になる。

金曜日、目標のことを忘れようとする。

1週間後、「やっぱり自分には無理だった」と結論づける。

これは意志の問題ではありません。目標の設計ミスです。

2. 「失敗」が構造的に組み込まれた目標

「1日10,000歩」という目標の何が問題か。

それは、9,999歩でも「失敗」になるということです。

8,000歩歩いた日。普段より頑張った日。でも目標は10,000歩だから、「失敗」。

7,000歩の日。仕事が忙しくて精一杯だった日。でも「失敗」。

5,000歩の日。体調が悪かった日。でも「失敗」。

毎日、失敗が積み重なる。

人間の脳は、失敗を記憶しやすくできています。成功より失敗の方が印象に残る。

だから、具体的な数値目標は「失敗製造機」になりやすいのです。

あなたが運動を嫌いになったのは、運動が嫌いだからではないかもしれない。「失敗し続ける体験」が嫌だったのかもしれない。

3. 「どこまでできるか見てみよう」という目標の力

では、どんな目標なら続くのか。

論文が紹介しているのが「オープンゴール」です。

オープンゴールの例:

  • 今日、何歩歩けるか見てみよう

  • 20分間で、どこまで走れるか試してみよう

  • 今週、どれくらい体を動かせるかやってみよう

具体的な数値がない。達成基準が曖昧。

「そんなの目標じゃない」と思うかもしれません。

でも研究結果は逆でした。

運動習慣がない人にオープンゴールを与えると、具体的な数値目標より多く歩いた。しかも、心理的にも良い状態だった。

なぜか。

オープンゴールには「失敗」がないからです。

「今日、何歩歩けるか見てみよう」という目標で7,000歩歩いたら、それは「7,000歩歩けた」という結果になります。

「10,000歩に届かなかった」ではなく、「7,000歩という発見があった」になる。

ある研究参加者はこう言っています。

「オープンゴールは失敗のトラウマを取り除いてくれた。失敗はなかった。良い日は良い日。悪い日は、明日はもっと良くなる。それが本当にモチベーションになった」

4. 具体的な目標が「合う人」と「合わない人」

誤解しないでください。具体的な目標が悪いわけではありません。

問題は、「誰にでも同じ目標が効く」という思い込みです。

論文は明確に線を引いています。

具体的な数値目標が合う人:

  • すでに運動習慣がある

  • 運動の仕方を知っている

  • 「もっと上を目指したい」というフェーズにいる

オープンゴールが合う人:

  • 運動習慣がない、または少ない

  • 運動を始めたばかり

  • 過去に挫折した経験がある

  • 「まず続けること」が課題

あなたはどちらでしょうか。

もし後者なら、「1日10,000歩」という目標は、今のあなたには早すぎるのかもしれません。

まずは「今日、どれくらい歩けるかな」から始めてみる。

それで運動が習慣になってきたら、そのとき初めて具体的な目標を立てる。

目標は、階段のように段階的に変えていくものです。

5. 間違った目標がもたらす「副作用」

目標設定には、実は「副作用」があります。知らないと、運動どころか心の健康まで損なう可能性がある。

副作用1:プレッシャーとストレス

「絶対に達成しなければ」という思いが強すぎると、運動がストレス源になります。

楽しむはずの運動が、義務になる。楽しいはずの散歩が、ノルマになる。

その結果、運動そのものが嫌いになる。

副作用2:失敗感と自己否定

目標を達成できない日が続くと、「自分はダメだ」という認知が強化されます。

実際には前より動いているのに、「目標に届かなかった」という事実だけが残る。

小さな進歩が見えなくなる。

副作用3:運動の楽しさを見失う

「10,000歩」という数字に集中するあまり、歩くこと自体の楽しさが消えてしまう。

景色を楽しむ余裕がなくなる。体の変化に気づけなくなる。

目標を達成することがすべてになり、運動の本来の価値が失われる。

副作用4:メンタルヘルスへの悪影響

特に、気分が落ち込みやすい時期にいる人にとって、目標の失敗は症状を悪化させることがあります。

「また失敗した」「自分には何もできない」——こうした思考が強化される。

運動は本来、メンタルヘルスに良いものです。でも、間違った目標設定が、その効果を打ち消してしまうことがある。

6. 「目標を立てない」という選択肢もある

ここで、少し発想を変えてみましょう。

そもそも、目標は必要でしょうか?

「目標がないと動けない」と思っているかもしれません。でも、それは本当でしょうか。

子どもは目標がなくても走り回ります。犬は目標がなくても散歩を喜びます。

体を動かすこと自体が楽しければ、目標は必要ないのかもしれません。

論文も指摘しています。どんな目標でも、「目標がない状態」より身体活動を増やす効果があると。

つまり、目標の「種類」より、「目標があるかないか」の方が大きな差を生む場合がある。

であれば、「今日はなんとなく歩いてみよう」でもいいのです。

完璧な目標を立てようとするあまり、何も始められないより、曖昧でも始めた方がいい。

7. 自分に合った目標の見つけ方

では、自分に合った目標はどう見つければいいのか。

以下の質問に答えてみてください。

質問1:今、運動習慣はありますか?

  • ほとんどない → オープンゴールから始める

  • 週1-2回程度 → オープンゴール or 緩めの数値目標

  • 週3回以上 → 具体的な数値目標も検討できる

質問2:過去に運動で挫折した経験は?

  • 何度もある → オープンゴールで「失敗しない体験」を積む

  • あまりない → 具体的な目標を試してもいい

質問3:数字を追いかけるのは好き?

  • 好き → 数値目標が合うかも

  • 苦手 → オープンゴールの方が楽

質問4:完璧主義の傾向は?

  • 強い → オープンゴールで「100点以外もOK」を経験する

  • そうでもない → 数値目標でも大丈夫かも

質問5:今、メンタル的にしんどい時期?

  • はい → 失敗のリスクが低い目標を選ぶ

  • いいえ → 挑戦的な目標も検討できる

8. 今日からできること:3つの実践

最後に、今日から試せることを3つ紹介します。

実践1:目標を「問いかけ」に変える

「1日10,000歩歩く」を「今日、どれくらい歩けるかな?」に変えてみる。

義務から好奇心へ。ノルマから実験へ。

言葉を変えるだけで、気持ちが変わります。

実践2:「できた量」を記録する

「目標に届いたかどうか」ではなく、「今日、何をしたか」を記録する。

5,000歩歩いたら、「5,000歩歩いた」と書く。「目標まであと5,000歩」ではなく。

できたことにフォーカスする習慣が、自己効力感を育てます。

実践3:1週間、数字を見ない

思い切って、1週間だけ歩数計やアプリの数字を見ないでみる。

代わりに、「体を動かしてどう感じたか」だけに注目する。

気持ちよかったか。疲れたか。楽しかったか。

数字から離れることで、運動そのものの感覚が戻ってくるかもしれません。

9. 「続かない自分」を責めるのは、今日で終わり

この記事を読んで、気づいたことがあるかもしれません。

今まで続かなかったのは、あなたのせいじゃない。

目標の立て方が、あなたに合っていなかっただけ。

「1日10,000歩」という目標は、すでに運動習慣がある人のためのもの。

運動をこれから始める人、何度も挫折してきた人には、別の目標が必要だった。

それを知らなかっただけ。誰も教えてくれなかっただけ。

だから、自分を責めるのは今日で終わりにしましょう。

明日から、目標の立て方を変えてみてください。

「10,000歩」ではなく、「今日、どこまで歩けるかな」。

「週3回ジム」ではなく、「今週、どれくらい体を動かせるかな」。

小さな変化です。でも、この小さな変化が、運動との関係を変えるかもしれません。

運動が「続けなければいけないもの」から「やってみたいもの」に変わる日が来るかもしれません。

その日のために、まずは今日、一歩を踏み出してみてください。

目標なんてなくていい。「ちょっと歩いてみようかな」で十分です。


参考文献
Swann, C., et al. (2025). Goal Setting in Exercise and Physical Activity: An Expert Statement on Behalf of Exercise and Sports Science Australia. Sports Medicine. https://doi.org/10.1007/s40279-025-02373-5

この記事を書いた人

石岡大輔 | Daisuke Ishioka

RESIST西新宿店 代表トレーナー

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