この記事について
この記事は、パーソナルジム&ピラティスRESISTを運営し、日々実際の店舗でお客様と向き合っている私自身の体験と観察をもとに書いています。
学術論文の要約でも、海外記事の翻訳でも、AIが生成した一般論の焼き直しでもありません。
現場で起きたこと、うまくいかなかったこと、そこから考え直したことを一次情報として残す目的でまとめています。
「AIがあればトレーニングは不要では?」と実際に言われた日のこと
2025年の秋頃だったと思います。
30代後半の女性のお客様とのカウンセリング中、こう言われました。
「正直、AIアプリでメニューも出るし、YouTubeもあるし、ジムって本当に必要なんですか?」
この言葉を聞いた瞬間、私は反論しようとは思いませんでした。
なぜなら、その方の言っていることは半分正しいと感じたからです。
むしろ私の中で湧いてきたのは、「じゃあなぜこの方は、わざわざここに来てその質問をしているのだろう」という問いでした。
実際、AIで「できるようになったこと」は多い
事実として認めなければならないことがあります。
トレーニングメニューの作成、食事の目安、フォームの参考動画。これらは、AIやネットで十分に手に入る時代になりました。
ここは、現場にいる人間としても否定できません。
私自身も、お客様に「このエクササイズの動画、YouTubeで復習してみてください」とお伝えすることがあります。情報へのアクセスという点では、AIやネットは非常に優れています。
しかし問題は、「それが揃っているのに、なぜ多くの人が続かないのか」という点でした。
現場で何度も見た「不思議な現象」
RESISTに来られる方の中には、トレーニング知識がある方、自分で調べている方、モチベーションも決して低くない方が少なくありません。
ある40代男性のお客様は、以前24時間ジムに通っていて、自分でメニューも組んでいました。栄養学の本も読んでいたそうです。
それでも、過去を振り返るとこう言いました。
「やり方は分かってたんですけど、いつの間にかやらなくなってました」
最初、私は「忙しかったのかな」「環境の問題かな」と思っていました。
ですが、同じような話を聞く人数が増えるにつれて、共通点が見えてきました。
続かなかった理由は「意思」ではなかった
実際に話を深掘りすると、多くの方がこういう状態になっていました。
今日はやるべきか、休むべきか分からない。この痛みは無視していいのか判断できない。強度を上げるべきか下げるべきか迷う。迷った結果、今日は何もしない。
これは怠けではありません。
判断が積み重なりすぎて、疲れてしまっている状態でした。
私はこの状態を、現場用語として「判断疲労フェーズ」と呼ぶようになりました。
正式な学術用語ではありませんが、現場で起きていることを言語化するために、自分なりに名付けたものです。
「判断疲労フェーズ」に陥った方の具体的なケース
ここで、実際に私が担当した方のケースを紹介します(ご本人の許可を得て、詳細は一部変更しています)。
Aさん(30代女性・会社員)は、ダイエット目的でRESISTに来られました。
以前、別のパーソナルジムに通っていた経験があり、トレーニングの基礎知識はありました。その後、費用を抑えるために24時間ジムに切り替え、AIアプリでメニューを管理していたそうです。
最初の3ヶ月は順調でした。アプリの指示通りにトレーニングし、食事も記録していました。
しかし4ヶ月目あたりから、こんな状態になったそうです。
「アプリは『今日は脚の日』って言うんですけど、昨日ちょっと膝が痛かったんです。でも休むべきなのか、軽めにやるべきなのか分からなくて。結局その日は何もしませんでした。次の日も『昨日やらなかったからどうしよう』ってなって。気づいたら2週間ジムに行ってませんでした」
Aさんが続かなかった理由は、意志の弱さではありませんでした。
毎日、小さな判断を一人で積み重ねることに疲れてしまったのです。
AIが強いのは「正解を出すこと」、弱いのは「責任を持つこと」
ここで、事実と私の意見を分けて整理します。
【事実】 AIは、条件を与えれば合理的な選択肢を出せます。情報量と処理速度は人間より圧倒的に速いです。
【意見(現場からの実感)】 人は「正解」よりも「誰かと判断を共有できること」で動けるようになります。一人で決め続ける状況が、最も継続を壊すと私は感じています。
AIは「今日はこれがベストです」と言えます。
しかし、今日やらなかったときの後悔、今日やりすぎたときの不安。これを一緒に引き受けてはくれません。
Aさんが必要としていたのは、「正しいメニュー」ではなく、「今日は休んでいいよ」と言ってくれる誰かだったのではないか。そう考えるようになりました。
パーソナルジムの役割を、意図的に変えた
この気づき以降、RESISTでは「教える」「指導する」よりも、「判断を一緒に持つ」設計に重心を移しました。
具体的に変えたことを3つ挙げます。
1. 今日やらない判断も、否定しない
以前は「せっかく来たんだから軽くでもやりましょう」と促すことがありました。今は「今日は来ただけで十分です。ストレッチだけして帰りましょうか」と伝えることも増えました。
2. 強度を下げる理由を言語化する
「今日は軽めにしましょう」ではなく、「昨日睡眠が浅かったとおっしゃっていたので、今日は回復も兼ねて強度を落とします」と伝えます。判断の根拠を共有することで、お客様自身も納得して取り組めます。
3. 「迷ったら来ていい」状態を作る
RESISTは通い放題のパーソナルジムです。この仕組みを「たくさん来てもらうため」ではなく、「迷ったときに来るハードルを下げるため」と再定義しました。
「今日やるか迷ったら、とりあえず来てください。来てから一緒に決めましょう」と伝えています。
数字より先に、行動が変わった
この設計変更の後、体重や筋力の変化より先に、行動の変化が起きました。
来店が途切れにくくなりました。予約キャンセルが減りました。
そして何より印象的だったのは、「考えなくていいから来ました」という言葉でした。
ある50代男性のお客様は、こう言いました。
「家にいると『今日やろうかな、どうしようかな』ってずっと考えちゃうんです。でもここに来れば、あとは先生が決めてくれる。それが楽なんです」
この言葉を聞いたとき、私の中で「AI時代に価値が残るパーソナルジム像」が初めて言語化できました。
失敗談:最初からうまくいったわけではない
正直に書くと、この方向に舵を切るまでに、失敗もありました。
以前の私は、「正しいフォーム」「効率的なメニュー」を伝えることに注力していました。情報の質で勝負しようとしていたのです。
あるお客様に、かなり詳しいトレーニング理論を説明したことがあります。なぜこの種目が効くのか、筋肉の構造から丁寧に解説しました。
そのお客様は「すごく分かりやすいです」と言ってくれました。
でも、3ヶ月後にはいらっしゃらなくなりました。
後から振り返ると、その方が求めていたのは「詳しい説明」ではなく、「一緒に続けてくれる人」だったのだと思います。
情報で勝負しようとした時点で、AIとの競争に巻き込まれていたのです。
AI時代に価値が上がるジムの条件(私の仮説)
これは理論ではなく、現場での仮説整理です。今後変わる可能性もあります。
1. 正解を与える場所ではなく、判断を共有する場所
お客様が「今日どうしよう」と迷ったとき、一緒に考えて、一緒に決める。その判断の責任を分かち合う。
2. モチベーションに頼らず、来れる設計があること
「やる気があるときだけ来る」では続きません。やる気がなくても来れる仕組み、来たら何かが始まる環境が必要です。
3. 人が関わる意味が、説明できること
なぜAIではなく人なのか。その問いに対して、「判断を共有できるから」「責任を一緒に持てるから」と答えられるかどうか。
逆に言えば、情報提供だけ、メニュー作成だけ、煽り型のモチベーション喚起だけでは、AIに代替されやすいと感じています。
現時点での結論
AIによって「知る・調べる・選ぶ」は簡単になりました。
その結果、人は「判断疲労」に陥りやすくなりました。
現場では、判断を共有できる環境が継続を支えています。
パーソナルジムの価値は、情報ではなく「判断の伴走」にある。
これが、2026年1月時点で、現場に立っている私の結論です。
今後の検証予定
この記事で書いたことは、あくまで現時点での観察と仮説です。
今後、以下のことを継続的に検証し、記録していく予定です。
「判断疲労フェーズ」の状態から、どのくらいの期間で「自走」できるようになるのか。判断を共有する関わり方は、どの年代・どの目的の方に最も効果があるのか。AI活用と人の関わりの最適なバランスはどこにあるのか。
これらの検証結果も、また一次情報として発信していきます。







